終わりの日記


終電の一本前の電車に乗ることができた。明日は2限からだけど、睡眠は足りなくなるかもしれない。


最寄り駅を降りた後、家に向かって歩いて帰ることにした。朝は雨が降っていたから、自転車は乗れなかったし、もう終バスは終わっている。歩くしかなかったのだ。駅のロータリーでは、タクシーが二台、所在無さげに客待ちをしていた。運転手が一人、トランクの後ろで煙草の煙を吐いていた。煙は真っ暗な空を一筋白く分けて消えた。


ちょうど家の方向が月が同じだったので、私は目印のように上を向いて歩いた。

今日の月はとても明るいからか、周りにじわじわとくすんだ虹色のような淡い光が丸く広がってて、薄く雲がかかっているけれど、そこから漏れる光もまた綺麗だった。

ところどころ電線が月を渡って、美しい構図を何度も描いていた。私が詩人だったら良い作品が作れるのになあと思う。せめて写真を撮ろうか少し逡巡したけれど、肉眼に勝るレンズはないことは、約20年間でようやく培った経験の一つでもあったから、私はひたすら上を向いて鼻歌をうたって歩き続けた。



月が明るいだけでこんなにも心強くて、こんなにも感動するなんて、なんて良い日なんだろうと思った。家のドアをそろりと開けると、リビングの奥で犬が眠そうに私のことを見つめていた。

ただいま、と寝ている母親に声を掛けると、気をつけなさいよ、と柔らかい返事が聞こえた。わたしは水を飲んでから、着替えて布団に入った。
明日も良い日になりますように。
もうあしただけど。