ゆめのはなし



夏目漱石夢十夜が、朝日新聞で再び連載を始めた。私はハサミで切り抜いて、スクラップにしようか、どうにかして綺麗に壁に貼ろうか迷っているところだ。第一夜が高校の国語の授業で取り上げられた時に、ひたすら虜になってしまい、帰りに急いで本屋で文庫を買って帰ったのを覚えている。百年経つことと百合が掛けられていることがわかった時の感動といったら!

静謐でロマンチックで筋が合わなくていかにも夢らしい第一夜が、私は1番好きだ。


私は夢を見たら、なるべく携帯のメモに概要だけでも残すようにしている。なんかネタになるかな、というのもあるが、単純に読み返すと面白いからだ。巷では夢日記は精神を狂わせるといった噂があるようだが、今のところなんの支障もない。日記というほど書いていないからだろうか。目が覚めた瞬間にほろほろと忘れていく感覚は何度味わっても妙なものだ。幻を掴むみたいに、寝ぼけた目で文字を打っていくのは不思議な感覚である。

夢はたまに象徴的で暗示的な何かを出演させる。夢占いが流行るのも分かる。なにかしら意味があるものだと思ってしまうのも無理はない。

今日見た夢は、あ、私もこの一文を使ってみたい。





こんな夢を見た。



大きな和室にいた。旅館を思わせるような作りで、襖で何畳もある一つの畳部屋が仕切られているようだった。建物自体は上に高いようで、廊下に繋がる襖は開け放たれ、高い位置にある窓から夕陽が差し込んでいる。空間はオレンジに染まっていて、埃がキラキラと雪のように輝いて舞っている。私はその一室で、大層好きな歌手の男の人と対面している。彼は白いTシャツにダメージジーンズを履いていた。裸足だったので、私は彼の足の爪の形の美しさを目に留めることが出来た。彼は何かを言った。私は何かを答えた。彼は笑った。そして私と手をつないで、それからいくつもの布団を重ねて作った塔を器用に登り、私を呼びながら上の階へと消える。私も続こうと布団を掴むが、バランスを取るのが難しく、ぐらぐらと足場が揺れて辿り着けない。無理矢理にぐっと力を込めて体を引っ張ると布団の塔はドサリと崩れ落ちてしまった。

私はすこし途方に暮れて、階段を探した。



そこで目が覚めた。

わたしは幸せと切なさの間の気持ちの中で起きて、少しだけ笑った。時刻はもう昼だった。